ボーカル「動画撮ってたよ。女」
三奈「何の動画?」
ボーカル「してるところ」
三奈は返せなくなった。
どこかのだれかとしている。
それを動画に撮っている。
ボーカル「ところで、今日か明日どうする?」
ボーカルは話を戻した。それにちょっと安心した。
安心したと言っても、そのラインにリアクションしなくて済むことに安心しただけで、これから何がおきるかについては、安心でも動揺でもない。
なんだろう、恋にしているような気がする。
ちょっと息苦しくて、ワクワクしている。
三奈「今日でも大丈夫」
待ち合わせはお互い慣れたものだった。
駅だけ決めれば、その駅のどこなのかなんて確認しなくても落ち会えた。
「どこか行きたいとこある」
「どこでもいい」
「じゃあホテルいこうか」
「さっきまで他の女の子としてたんでしょ」
「そうだよ。なにかある?」
「なんでもないけど」
あの頃と特別変わったことはなかった。キスをして、お互い脱がせて、愛撫し合って。
ただ少しだけ違うことがあった。
彼はいれる前に言った
「あ、おれ結婚したんだよ。この何年かあってない間」
「そう」
三奈、たいして驚いていない振りをした。そんなことぐらいあってもおかしくはない。
今妻は妊娠してる。
三奈はそれには驚いた。
この男は、セックスの状況設定で嘘をつくときがあった。それははじめは嘘がどうかわからないものであった。あるときは嘘と気づき、あるときは嘘か本当かわからないまま、二人で上り詰めたこともある。
三奈はそれが嫌いではなかった。いや、それが好きだった。だからこうしてまた、やっぱり体を重ねている。
さっきの、女としていたというのも嘘かもしれない、ホントかもしれない。どちらにしろ、三奈を欲情させるために言ったものと思っている。
彼は続けて言った。
つづく
奈良あひる
1990年生まれ