第5話
私たちは店を出て、お互い今日一日のお礼を言って別々の方向へ歩きだした。普通に会社にいっていれば、こんなことはまず起きないなんて思った。
加恵はいままで平日休みの仕事をしており、今日という日がたまたま土曜日で、いわゆる土日休みというものは、どれだけ夢がが広がる世界なのかと、思い知るのだった。
加恵は、なんだかもう少し今日という日を引っ張りたいという気持ちになっていた。
加恵はもう一度あのお店、今さっきいったお店に行っていようと思った。そこで、カフェラテもしくはカプチーノでも頼んでみるのも粋な気がしたからだ。
同じ日にあっては、別の店に行くことと、また同じ店にいくことでは、同じ店に行く方が少数派な気がしたからだ。
だとしても、そこに何があるわけでもないのだが。
イタリア喫茶の前に着く。
私は扉を開けて席へさっきとは別の席に向かった。一度いった店なのでお店の扉は軽かった。
すれ違いに、私が男と食事を共にしたときそばにいたカップルが会計をすませ、すれ違った。それぞれの男女の関係というかおりがサッとふきぬけていったが、その香りはすぐに夜風に流れていった。
私は、カフェラテを注文した。マスターは、先程も来ていたことには、触れなかった。気づいてもいないのかもしれない。
すると、一人の男が入ってきた。先程のカップルの男だった。何やら、マスターと話してる。
その男は、加恵のテーブルを通りすぎるとき、
「これどうぞ」と言って、小さいmemoのようなものを置いていった。加恵はそれが何かもわからずに、反射的に「あ、どうも」と言って受け取った。
つづく
主に、官能小説、ワンナイト体験記などを短篇小説として書いています。
よろしくお願いします。