第12話
加恵「はい、大丈夫です」
もう覚悟はできてるよね。
浅田は自信に溢れているようだった。
加恵はラブホテルがどこにあるかは知らないが、浅田が自然に歩いていくので、きっとそっちにあるのだろうぐらいで、一緒に歩いた。
浅田は、やや不自然なぐらいに、熱海のまちの雑学というか、うんちくを得意気に話、加恵は、きっと明るい雰囲気を作ろうと必死なんだと、ほほえましくそれをきいて
「そうなんだぁ」と、付き合い始めるか始めないかのカップルの会話ぐらいの明るさで答えた。
もっとも、そんな屈託のない恋をなんていつのことかもわかりはしないが、このときは、それを思い出すぐらいの時間だった。
もう充分熱海の夜というものを、楽しんだ気もした。
しかし、加恵はまだ冷静なところもあって、それでは、具体性がないことにも気づいていた。
もう中学生じゃないんだから。
男にとったってそれで気が済むはずもない。
そんなことぐらい知っている。
以前、バイト先の先輩が言っていた。
女は、どうせ体の目的の相手でさえも、好きになってからしたいもの。
加恵にとって、浅田はもうその域には達していると気づいた。
この人何している人だろう。何をしてくるのだろう。なにをしでかすのだろう。
ラブホテルが見えてきた。
浅田は、建物前で、何一つためらうこともなく、中へ入っていった。
加恵の手はいつのまにか繋がれていた。
どっちから繋いだかわかならいぐらいだった。加恵は、加恵からつないだという感覚の中にいた。
部屋のドアが閉まると、彼は一言目を口にした
つづく
=奈良あひる=
井の頭Pastoralにも連載してます。