田中屋スポーツ新聞11/29「絆創膏を貼りたい 小説灯に揺れる午後スタート」編集/田中宏明

夕刻日誌
夕刻日誌 短篇小説

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田中屋の夕刻日誌「おじいちゃんに絆創膏を」作/田中宏明

人はまぁ亡くなる。不幸なことではない。
ちょっと前のことだがMint(妻)の父親が亡くなった。


お葬式でYududu(うちの娘 当時3歳?)が棺桶のおじいちゃんに「ちょっとみてみましょう」なんていっておもちゃの聴診器をあてはじめたのだ。「大丈夫」みたいなことをぶつぶついっていた。そして、おじいちゃんの顔がちょっと赤くなっている部分をみつけて、「絆創膏を貼らなきゃ」と絆創膏をもってきて貼ろうとした。絆創膏大好きで、僕にも人形にもよく貼っているのだ。
しかし、ここでは「それはだめだよ」とおばあちゃんに止められる。Yududuは「治してあげたかった」と泣き出した。

僕はYududuを持ち上げてその場から離れたのだけど…

おばあちゃんからしたらそれはNG行為なわけで、その現場としても何もない方が無難だったりもして

それでは僕はというと、おじいちゃんからして、孫が絆創膏を貼ったらうれしいのではないかと思うわけで…

もし自分だったら、死んだ後に娘の娘なんてのがいて、その子が絆創膏貼ってくれたら泣いちゃうかもね、なんて思うよね。

そうそう、間をとって、貼りはしないけど棺桶の中に入れても良かったんだよね。それはその時に思いつかなかったんだけど。

=ライブのおしらせ= 

BerryBerryBreakfast現場ラジオLive 

12月13日 南林間チャンドラ・スーリヤ 

17:30スタート 

オールデイズ直江津Radioモーニングから 

ラジオドラマ「見世物小屋のクリスマス」と歌の世界をお届けします。 

脚本・歌・出演/田中宏明 

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田中屋のシティスナップ

小説「灯の揺れる午後」第1話 作/奈良あひる

 夕方、夫の会社から一本の電話が入った。後輩の岸本という青年が、書類を届けに寄るという。夫はまだ帰らないらしい。


 台所に差し込む光は弱く、煮物の鍋から上がる湯気だけが、家の気配を保っていた。

 玄関のチャイムが鳴き声のように短く響いた。
 扉を開けると、スーツにまだ若い余白を残した岸本が立っていた。礼儀正しく頭を下げた拍子に、前髪がわずかに揺れる。

「奥さまにお渡しするように言われまして……」

 書類を受け取る手が、ふと彼の指に触れた。
 それは単なる偶然だったはずなのに、思いがけない“温度”に、胸の奥がこそばゆく波立った。

「少し、お茶でも──」
 言い終わる前に、自分の声がやけに明るく響いているのに気づいた。

 彼は遠慮がちに笑って、台所の椅子に腰を下ろした。湯呑み越しに交わす会話は、驚くほどやわらかく、こちらの肩の力を自然に抜いていく。
 夫が若い頃に見せていた素直さを、彼がそのまま持ち歩いているようにも見えた。

「奥さま、指に少し赤い跡がありますよ」

 ふいに彼が言った。洗い物で擦れただけなのに、その一言が、思いがけず胸の奥に落ちた。
 誰かに気づかれるというだけで、人はこんなにも身体の輪郭を意識するものなのか。

 その日を境に、岸本はたまに書類を届けに来るようになった。必要かどうかも怪しい書類ばかりで、夫の雑さとも、岸本の熱心さともつかない理由だった。

 ある雨の日、彼は傘から滴る雫のまま玄関に立っていた。濡れた前髪が頬に張りつき、どこか子犬のようだった。

「すみません、これ……急ぎでと」

 濡れた袖口を見て、放っておけない気持ちが、静かに胸に満ちる。

「タオル、貸します。入って」

 居間で彼の肩にタオルをかけると、わずかに身をすくめた。その震えは寒さだけではないように見えた。

 タオル越しに触れた肩。細いようで、思ったよりも確かな骨の存在。
 その一瞬、部屋の空気が止まったように感じた。雨音だけが屋根を叩き、二人の間の沈黙を柔らかく包む。

「……奥さまって、どこか、懐かしい感じがするんです」

 声は低く、濡れたままの瞳がまっすぐこちらを向いていた。
 心臓がひとつ、跳ねた。怒るでも笑うでもなく、ただ静かに息を整えるしかなかった。

 背を向けた瞬間、指先がかすかに触れた。ひと筋の電気のようなものが腕を走る。
 振り返れば、何かが変わってしまう──そんな気配だけが、濃く、確かだった。

 その日は、互いに言葉を失ったまま、岸本は帰った。
 玄関の閉まる音が、思いのほか深く胸に残った。

 夜、夫が帰宅しても、私はどこか上の空だった。
 あの指の温度。濡れた瞳のまっすぐさ。そして、触れる寸前の呼吸。

 まだ何も起きていない。それなのに、心の奥ではすでに何かが始まりかけている。
 部屋の灯りはいつもと同じ明るさなのに、影だけが少し長く揺れて見えた。


つづく

作者紹介 

田中宏明 1980年生まれ 東京都昭島市出身の写真家・放送作家。  

2003年 日本大学文理学部応用数学科 ぎりぎり卒業。下北沢・吉祥寺での売れないバンドマン生活&放送作家として日テレ・フジテレビ・テレビ朝日を出入りする。現在はピンでラジオと弾き語りでのパフォーマンスをおこなっている。  つづく
◆写真家:シティスナップとかるーい読物「井の頭Pastoral」撮影・編集  
◆放送作家:ラジオドラマ「湘南サラリーマン女子」「わけありキャバレー」原作・脚本  

出演ラジオ 第101回 

第101回!「BerryBerryBreakfastのオールデイズ直江津Radio」ヨーグルト田中とDJシューカイ

田中屋のシティスナップ 

田中屋のシティスナップ 旅情俳句前夜「雨に濡れる高田馬場の女」撮影/田中宏明 #サーファー #shorts #zine 
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