真弓の証言
彼女は言葉を飲み込んだまま、ソファに腰を下ろした。
あの子の癖。負けるとき、声が消える。
それがわかるのも、長いつきあいだからだ。
水嶋は鈍い男だけど、女の湿りには正直だ。
ふたりの視線の間を、グラスを傾けながら読み取っていた。
そして、すぐに彼女に手を伸ばした。
……でも、そのとき私は、立ち上がって彼女のブラウスに手をかけた。
水嶋よりも先に、彼女の身体に触れたかった。
「ねえ、怒ってる?」
彼女は何も言わなかった。
でも目を閉じて、胸を晒した。
そう、それでいいの。
言葉より、体で応える方がずっと簡単。
私は彼女の乳首を指で弾き、軽く吸った。
身体がひくりと震える。
まだ、残ってる。あの男の味が。
「こっち、交代」
私は水嶋に言って、彼女の背後へ回った。
水嶋が彼女を突き上げるあいだ、私は前から彼女の頬を撫で、
乳首を舐め、唇を吸った。
不思議だった。
憎いはずの女を、こんなふうに愛撫しているなんて。
「どっちが好き?」
思わず口にした。
彼女は目を潤ませたまま、
「わかんない」とつぶやいた。
わからせるつもりなんてなかった。
わからないまま、苦しんでほしかった。
私と寝ていた男が、いま、私と一緒に彼女を貫いている。
この不均衡こそ、私が望んでいたことだった。
水嶋は最後、彼女の背中に放った。
私はそれを見て、安堵した。
私じゃなくてよかった。
私は、その役を降りていた。
彼女はまだ、抗えない場所にいる。
その夜のあと、私は水嶋には会っていない。
彼女からも連絡はない。
でも、それでいい。
あれは、「私の勝ち方」だった。
ベッドの上で身体を開かせ、
愛でも恋でもないやり方で、
あの子の無言を引きずり出した。
夜、ふと鏡を見ると、
唇の下に小さな赤い跡が残っていた。
あの子の歯だ。
水嶋じゃない。
男と共有した夜だったのに、
記憶に残っているのは、
あの子の体温と、喉の奥の湿りだった。
女って、変な生き物ね。
奪うつもりが、
なぜか、少しだけ重なってしまう。
それでも私は、今日もネイルを塗り、
紅をさす。
負ける気はない。
たとえ、もう誰も奪わなくても。