
夕刻日誌「宇多田ヒカル なぜ失恋するときついのか」
もともと痛みがあって、恋人が痛み止めになっていたから
こんなことをいったらしい。
これについての感想は
「ちゃんと向き合って答えてあげたほうがいいんじゃないの?」です。

田中屋のシティスナップ「開発に揺れる渋谷の女」

渋谷スナップ 作/田中宏明
連載小説「女の風景写真」第36話 作/奈良あひる
由紀子は、両側から寄せられる温もりに包まれ、思わず目を閉じた。
左からは夫の、右からは男の体温。互いに重ならぬように、それでいて確かに由紀子を中心に据えるようにして触れてくる。
鼓動が早まるにつれ、部屋の空気が濃く変わっていくのを、由紀子ははっきりと感じ取った。
自分のために二人が動いている。その実感は、背筋を震わせるほどの快感と、言いようのない安心を同時に運んでくる。
夫は長年の伴侶としての穏やかな手つきで、由紀子を導こうとする。
男は一方で、探るように新しい触れ方を差し込んでくる。
二人の違う温度が、由紀子のなかでひとつに溶け合っていく。
「……由紀子」
耳もとで夫の声が囁く。
その直後、反対側からは低い息づかいが重なる。
両耳に流れ込む声が、心の奥を震わせた。
由紀子は無意識に指先を伸ばし、夫と男の手を同時に探し当てた。
その仕草に二人は顔を見合わせ、わずかに頷く。
次の瞬間、三人の呼吸は一層深く絡み合い、もう後戻りできない境地へと踏み込んでいった。
目を閉じても、気配は鮮明だった。
衣擦れの音、息の重なり、わずかな震え。
それらが一斉に由紀子の中に流れ込み、彼女の意識を曖昧にする。
――三人でなければ味わえない感覚。
由紀子はその事実を受け入れると同時に、自分のなかに生まれる新しい欲望を認めざるをえなかった。
やがて、夫と男の手が、導き合うように由紀子を包んでいく。
互いを牽制するのではなく、共に一つの流れを作ろうとしているのが伝わってきた。
由紀子はもう言葉を探すことをやめ、ただその濃密な熱に身を委ねた。
つづく