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田中屋のシティスナップ「熱海の情景」

小説「美咲は27歳の新妻だった」後編 作/奈良あひる

あれから二週間、美咲の心は落ち着かず、胸の奥がずっとざわついていた。
拓也はいつも通り優しく、家庭を大切にしてくれる。しかし、夜の時間は淡々としていて、心が満たされない。遼太のことを思い出すたび、昔の記憶が鮮明に蘇る。
ある金曜の夜、拓也は出張で不在だった。
美咲は迷った末、遼太にLINEを送った。
「今夜、少し会える?」
一時間後、玄関のチャイムが鳴る。ドアを開けると、遼太がそこに立っていた。二人きりになると、昔と同じ緊張感が流れる。言葉少なに見つめ合い、自然と手が触れそうになる距離。
「久しぶりだね、美咲」
遼太の声に胸が高鳴る。美咲は視線を落とし、心の奥の熱を押さえようとした。二人で過ごす時間は短くとも、会話の端々にかつての親密さが滲み、忘れかけていた感情が揺れ動く。
その夜、美咲は自分の気持ちに戸惑いながらも、過去の思い出と現在の生活との間で心が揺れるのを感じていた。遼太との距離が近づくたび、胸の奥が痛くなるように熱くなる。
翌週、拓也が帰宅した夜。食事を終え、リビングで並んで座る。美咲は震える声で切り出した。
「ねえ、拓也……聞いて欲しいことがあるの」
拓也は穏やかに微笑み、頷いた。美咲は深呼吸して、胸の内を打ち明ける。
昔の同僚との関係、そしてそのことで心が揺れ動いたこと。自分の気持ちの整理がつかず、葛藤していたこと。
拓也は最初、驚いた表情を浮かべたが、怒ることなく静かに聞いてくれた。美咲は涙をこらえながら、正直な気持ちを伝えた。
「私……昔のことを忘れられなくて……ごめんなさい」
部屋に静かな沈黙が落ちる。拓也の瞳には複雑な光が揺れていたが、怒りや非難の色はなく、ただ美咲の言葉を受け止めているようだった。
その夜、美咲は初めて、心の奥のざわつきと向き合い、自分の気持ちを整理する一歩を踏み出した。
おしまい
作者紹介
田中宏明 1980年生まれ 東京都昭島市出身の写真家・放送作家。
2003年 日本大学文理学部応用数学科 ぎりぎり卒業。下北沢・吉祥寺での売れないバンドマン生活&放送作家として日テレ・フジテレビ・テレビ朝日を出入りする。現在はピンでラジオと弾き語りでのパフォーマンスをおこなっている。
◆写真家:シティスナップとかるーい読物「井の頭Pastoral」撮影・編集
◆放送作家:ラジオドラマ「湘南サラリーマン女子」原作・脚本 オールデイズ直江津Radioで放送中!
出演ラジオ 第101回
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