プチロマン小説「女が日本一周するとき」第1話 作/奈良あひる

短篇小説
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会社で嫌なことがあった。鬱になって退職。なんて、そんな胡散臭いきっかけではない。

自分探しの旅なんて本当にあるのか、自分が見つかった人はいるのか、なんてことを確かめようというきっかけだ。

日本一周、いや、日本のそこら辺を1周ぐらいしてみようかと。

青春18きっぷは使ったり使わなかったり。いつの間にJRでなくなっている線も多いみたい。

私は、伊藤加恵(かえ)。
日本のその辺一周の旅へ出る。

神奈川の私鉄沿線から見える窓の景色を眺めながら、加恵は思う
「私はいつこの町に戻ってくるか」

まずは熱海に泊まることにした。たいして進んでいないのだが、熱海はいったことがなかったから。

サンビーチで海を眺めると、もともと浮かれた気分でもない旅はやはり、うかれた気分にはなれず、夜までの時間をなにもせず、お金もつかわずつぶすように過ごしているだけだった。

所持金は10万円だけだった。

今夜の宿は3800円
食事代もいれて、一泊5000円としたら、20泊できるのだが、それでは進まない。
交通費もかかる。
例えば、次に名古屋へいくとしたら、それだけで約5000円かかる。

そんなことを考えていたら、日は傾いていた、

誰かの声がした。男の声だ。

つづく

作/奈良あひる

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