「短篇小説」電車ひと駅で読めるメルヘントリップ

短篇小説

プチロマン小説の習作「猫背のままで」作/奈良あひる

「猫背のままで」  六月の終わり、梅雨の晴れ間に、私はヨガを始めた。 職場の同僚に誘われて通い始めた小さなスタジオは、白木の床がやけに静かで、足音さえも吸い込まれてしまうようだった。汗をかくほど動かないのに、帰るころには肩の荷が一つ...
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青春プチロマン小説『雨の夜に』第4話(最終回)作/奈良あひる

第4話 (最終回)  夜は深く、街の明かりもまばらになったころ、私たちは互いの熱を残したまま静かに横たわっていた。 体の温もりはまだ隣にあり、呼吸はゆっくりと落ち着きを取り戻しつつある。息遣いが交じり合うその瞬間、言葉よりも深く互い...
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青春プチロマン小説『雨の夜に』第3話 奈良あひる

第3話 あれから数日、私は村井のことを考えずにはいられなかった。 会社からの帰り道、雨上がりの夜道、食卓の後片付け――ふとした瞬間に、彼の温もりと息遣いがよみがえる。胸の奥に忍ばせた熱は、どうにも消えることがなかった。 ...
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青春プチロマン小説『雨の夜に』第2話 奈良あひる

『雨の夜には』 第2話  村井と再び顔を合わせたのは、それからひと月ほど経ったころだった。 夫の出張で二晩留守にする夜、電話が鳴った。受話器から聞こえた声は低く、ためらいを含みながらも真っ直ぐだった。 「この間のお礼がしたくて...
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プチ小説の習作「茄子の煮たヤツ」 奈良あひる

「茄子の煮たヤツ」  雨が降っている。今日もまた思い出す人がいる。 駅前のスーパーで茄子が五本百円だったから、ついひとつ手に取った。艶のある紫色の皮に、自分の手元がぼんやり映った。  まだ暑さの残る九月の...
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夕暮れの客間 第4話(最終回)奈良あひる

夜が明けきる前に、鳥の声が遠くで聞こえた。 真砂子は、まだ夢の底にいるように布団の中で目を開けた。 隣には、眠りに落ちた村井の横顔があった。  月明かりに照らされていた影はもうなく、障子の隙間から白んだ光が流れ込む。 現実と夢の境目...
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夕暮れの客間 第3話

十月の夜は、思いのほか早く冷え込んだ。 真砂子は、夫の出張が決まった日から、胸の奥でざわめくものを抑えきれなくなっていた。 「二泊三日で大阪に」 夫の何気ない言葉を聞いたとき、心のどこかが震えたのを、自分でも否定できなかった。  そ...
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夕暮れの客間 第2話 

あの雨の夕暮れから、一週間が過ぎた。 真砂子は、まるで何事もなかったかのように家事をこなし、夫と並んで食卓についた。けれど、ひとりで洗濯物を畳むときや、夜更けに湯呑を手にしたとき、ふと胸の奥で熱が揺れる。  触れなかった唇の感触。 ...
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夕暮れの客間 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。  家・夕暮れ  雨上がりの匂いがまだ残る夕暮れだった。 真砂子は薄い生成りのブラウスを着て...
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プチ小説の習作「灯らない部屋」奈良あひる

灯らない部屋  最後に名前を呼んだのは、いつだっただろう。  鍵のかからないビジネスホテルの一室。午後二時の光がベッドのシーツにうっすら影を落としている。彼女はコートを椅子にかけ、窓際のカーテンに触れた。乾いた都会の光...
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青春プチロマン小説「女が日本一周の旅に出る時とき」第35話(最終回)作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなくて、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。女が日本一周に出る理由 SNSにアップしない濃厚ストーリーを小説化 第35話(最終回) 加恵が見...
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プチロマン小説「雨の夜に」奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなくて、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 雨の夜に あの日のことを、私はいまだに胸の奥で温めている。 いや、温めるなどという言葉は正しくないのかもしれな...
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青春プチロマン小説「女が日本一周の旅に出るとき」第34話 作/奈良あひる

=プチロマン小説=ありそうでなくて、それでも起きそうなロマンスをお届けする青春プチロマン小説。きっとどこかで起きている。 第34話 加恵は街を彷徨い歩いた。 何も起きなかった。男には出会わなかった。さっきの男(陽...
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青春プチロマン小説「女が日本一周の旅に出る時」第33話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなくて、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第33話 陽太は…、パーなんでパーなのよ、加恵は笑って残念ねと笑みをこぼす。陽太は一方的に連絡先だけ渡して降り...
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奈良屋の随筆「素敵」作/奈良あひる

素敵 私には子供はいない。いつのタイミングかはわからないけど子どもは欲しいと思っている。子どものいるある男と家で話していてそんな言葉が私の口から出た。私は私がそのように思っていることを実感した。そんなとき、子どもをつくる力をもった男...
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