「短篇小説」電車ひと駅で読めるメルヘントリップ

短篇小説

青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー508」 第5話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第5話 秋の空がやたらと高く見える日だった。関内の喫茶店、薄暗い壁際の席。いつものように彼は先に着...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー」第4話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第4話 彼が、いつもと違う空気をまとって現れたのは、八度目の逢瀬だった。 「……これ、見てほしいもの...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー」第3話 作/奈良あひる

第3話:裏口から入る恋 男と会うのは、もう七度目だった。 逢瀬のたびに同じホテルの、同じ部屋。伊勢佐木町の508号室は、私たちにとって、便利で、そして都合のいい“仮定の生活”だった。 「……妻ね、このあいだ旅館で...
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「横浜ルームナンバー」第2話 作/奈良あひる

一度きりのはずだった。けれど、次の週にはもう、彼からのメッセージが届いていた。「昨日の雨、すごかったですね」と、天気の話を装いながら、行間に熱を滲ませていた。 そしてまた私は、夫に「美容院」と言い残し、横浜線に乗っていた。 待...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー」第1話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第1話 土曜の昼下がり、私たち夫婦は久しぶりに、横浜の大型ショッピングモールへ出かけた。夫はプラモデルが...
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露出計の向こう おまけ 

「宿り」 予定が、こない。私は、カレンダーを何度も見直した。 夫との再生を誓ってから、もう三ヶ月。写真家と交わった、あのアトリエの午後から、数えて十二週。正確に言えば、その直後に、私の身体は何かを抱えた。 最初は...
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プチロマン小説の習作「露出計の向こう」第8話 作/奈良あひる

第8話 夫「少し、散歩してくる」そう言って夫が階段を降りていった瞬間、私の鼓動は、明らかに音を変えた。 彼の足音が完全に消えるまで、私は動かなかった。動けなかった。 けれど、背後からゆっくりと近づいてきた彼の気配...
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露出計の向こう 第7話

「その眼差しの奥へ」 写真展は終わっていた。彼の作品はあっという間に人気になって、あの海辺のギャラリーでは手狭になったらしい。今は、東京の端の小さなアトリエで撮影も展示もしていると、ネットで見つけた。 夫がそのページを...
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露出計の向こう 第6話 

再生のまどろみ 夫がリビングのドアを開けたとき、私は、読むふりをしていた本をそっと閉じた。活字の意味なんて、最初から目に入っていなかった。 視線を上げると、夫は静かに私を見ていた。怒ってもいない。詰め寄ってもこない。ただ、何か...
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露出計の向こう 第5話

第5話「露光の罠」 日曜の午後、夫は一人で写真展に足を運んだ。写真展のフライヤーを偶然目にして興味を持ったのだ。私はとまどいをうまく隠せていたかはわからない。 ギャラリーの入り口で、受付の若い女性がにこやかに迎える。「...
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プチロマン小説の習作「露出計の向こう」第4話 作/奈良あひる

第4話「光のあいだに」 写真展の二度目の訪問は、三週間後だった。理由はなかった。けれど、理由がないことこそが、私をまたこのギャラリーに向かわせていた。 展示は一部入れ替えられていて、あの夜、自分が撮られた背中の写真はなくなって...
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露出計の向こう 第3話

第3話「フィルムの裏側」 私は、言い訳をひとつも用意しなかった。 週末の朝、駅まで夫に車で送られた。「少し疲れちゃって。潮の匂いでも嗅いできたいの」そう言うと、夫は「気をつけて」と笑った。左手薬指には、いつも通りの細いゴールド...
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プチロマン小説の習作「露出計の向こう」第2話 奈良あひる

第2話「指輪の記憶」 「奥さんなんですね」彼がそう言ったのは、さっき私の左手がふと胸元を押さえたとき、薬指の跡がくっきり残っていたからだった。 指輪を外す癖は、いつから身についたのだろう。けれど、外した痕跡までは、隠せ...
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青春プチロマン小説の習作「露出計の向こう」第1話 作/奈良あひる

「露出計の向こう」 女は、ひとりで海沿いの町を訪れていた。旦那の出張に便乗して、二泊三日の自由時間。波の音と海の湿りを感じながら、どこへも属さない時間を味わいたかった。 カフェのガラス越しに彼を見かけたのは、午後の二時すぎだっ...
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白い傘 おまけ② 奈良あひる 

水嶋の場合 あの夜、私は忘れたくもないような顔で、ふたりを抱いたことをふと思い出す。 きっかけは真弓だった。彼女は、どこまで見せてどこまで隠せば、男心が最も揺れ動くかをよく知っている。だから「二人で会おう」と言われた瞬間、何か...
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