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短篇小説

プチロマン小説の習作「喫茶 柘榴(ざくろ)」作/奈良あひる

喫茶 柘榴(ざくろ) その喫茶店は、三軒茶屋の裏通りにあった。朝はモーニングセット、昼はナポリタン、夜はアイスウィンナーコーヒーとラムケーキ。誰かに教えたくなるようで、教えたくない――そんな店だった。 彼と最初に会ったのも、そ...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー508」第11話 作/奈良あひる

第11話 あの夜から、ちょうど五日。午前の光の中に、その手紙は届いた。 封筒は、前と同じく無地のアイボリー。けれど、差出人の名前が今回は、「佳乃」だけだった。 【佳乃 → 私】 拝復 あの夜は、ありが...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー508」第10話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第10話 私は、手元にあったペンを握り直した。 USBで動画を見てからというもの、私は“あの二人の関...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー」第9話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第9話 その夜、夫が「風呂、先入ってくる」と言ったあと、私は下着を選んでいた。別に新しいものではなかったが...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー508」第8話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第8話 それは、やっぱり水色の封筒だった。今回は、裏に二つの名前があった。「佳乃・健介」 夫...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー508」第7話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第7話 封筒が届いたのは、日曜の午後だった。薄い水色の便箋が入っていて、差出人の名前は、男の姓のあとに「佳...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー508」第6話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第6話 雑誌が発売されたのは、金曜日だった。 私はわざわざ近所の書店ではなく、関内の駅ナカの売り場ま...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー508」 第5話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第5話 秋の空がやたらと高く見える日だった。関内の喫茶店、薄暗い壁際の席。いつものように彼は先に着...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー」第4話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第4話 彼が、いつもと違う空気をまとって現れたのは、八度目の逢瀬だった。 「……これ、見てほしいもの...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー」第3話 作/奈良あひる

第3話:裏口から入る恋 男と会うのは、もう七度目だった。 逢瀬のたびに同じホテルの、同じ部屋。伊勢佐木町の508号室は、私たちにとって、便利で、そして都合のいい“仮定の生活”だった。 「……妻ね、このあいだ旅館で...
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「横浜ルームナンバー」第2話 作/奈良あひる

一度きりのはずだった。けれど、次の週にはもう、彼からのメッセージが届いていた。「昨日の雨、すごかったですね」と、天気の話を装いながら、行間に熱を滲ませていた。 そしてまた私は、夫に「美容院」と言い残し、横浜線に乗っていた。 待...
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青春プチロマン小説「横浜ルームナンバー」第1話 作/奈良あひる

=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。 第1話 土曜の昼下がり、私たち夫婦は久しぶりに、横浜の大型ショッピングモールへ出かけた。夫はプラモデルが...
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露出計の向こう おまけ 

「宿り」 予定が、こない。私は、カレンダーを何度も見直した。 夫との再生を誓ってから、もう三ヶ月。写真家と交わった、あのアトリエの午後から、数えて十二週。正確に言えば、その直後に、私の身体は何かを抱えた。 最初は...
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露出計の向こう 第7話

「その眼差しの奥へ」 写真展は終わっていた。彼の作品はあっという間に人気になって、あの海辺のギャラリーでは手狭になったらしい。今は、東京の端の小さなアトリエで撮影も展示もしていると、ネットで見つけた。 夫がそのページを...
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露出計の向こう 第6話 

再生のまどろみ 夫がリビングのドアを開けたとき、私は、読むふりをしていた本をそっと閉じた。活字の意味なんて、最初から目に入っていなかった。 視線を上げると、夫は静かに私を見ていた。怒ってもいない。詰め寄ってもこない。ただ、何か...
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