男「もし少し時間大丈夫でしたら、写真撮らせてもらえませんか?」
その男はどうやら、写真家の玉子のようで。
加恵「ええ、私でよければ」
加恵はほぼ無表情のまま答えた。
なぜ私なのかわからないし、何に使うのかもわからないし
それでも、断る理由もない。
旅に出ながらあれこれ断っていては何もかわらないような気がしていた。
いままでのわたしなら断っていた気がする。
サンビーチを歩き、寂れた町を歩き、写真を撮った。
何も考えなくていい。
さっき海でいたとき考え事の続きをしていていいと、彼は言う。
不思議な気分であった。もう半分どうでもよかった私の人生。
男は世間話をしながら写真を撮った。
男「そろそろ笑顔がほしいな」
私は笑顔なんて忘れた。
加恵「笑わせてみて」
男「わかりました。もし笑顔が撮れたら、続きはここでとりましょう」
ラブホテルの前だった。
つづく