田中屋スポーツ新聞12/21「恐怖!松屋 深夜料金」編集/田中宏明

夕刻日誌

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恐怖!松屋深夜料金

噂には聞いていた。松屋が深夜料金の設定をするということ。

高円寺フォースフロアⅡにて「空には終点がセカンドシーズン」のライブを終えると、もう22時だった。

本当ならゆっくりしていきたいところではあるが、家は相模原である。
早く出発しなければ午前様だ。

夜ご飯を食べていなかったので、ここは松屋っしょってことで、

小説4

週が明けても、胸の奥に残るあの夜の温度はなかなか冷めなかった。
いつもの席に座ってパソコンを立ち上げても、指先だけが妙に軽く、心はどこか宙に浮いたままだ。
そんな私のそばを、由佳がそっと通り過ぎた。
視線が一瞬合ったけれど、お互いすぐに逸らした。
あの子はあの子で、何か整理したい思いを抱えているのだろう。
ただ、私がそこに手を伸ばすことが正しいのか――もう、その答えはわかりはじめていた。
昼休み、給湯室で湯飲みを洗っていると、由佳が入ってきた。
「先輩、この前は……ありがとうございました」
俯いたままの声だった。
謝罪なのか、感謝なのか、決意なのか。
彼女自身も整理しきれていないのだろう。
「由佳。あなたのことだから、きっと大丈夫よ」
ただそれだけを言うと、由佳はほんの少し目を潤ませ、「はい」とだけ小さく返し、すぐに出ていった。
その背中を見送った瞬間、胸が微かに痛んだ。
けれど、もうそれに踏み込む資格は、私にはないのだと思った。
人の心は、誰かの指示で動くものではない。
あの子が選ぶ道も、私が迷う道も――それぞれ、自分で決めるしかない。

会社の帰り道、空気に少し春の気配が混じり始めていた。
信号待ちをしていると、背中に見覚えのある気配が近づいた。
「先輩」
振り返ると、春木が立っていた。
さりげない顔をしているのに、目の奥だけがわずかに揺れている。
「この前のこと、後悔していませんか?」
唐突な問いだった。
それでも、返事に迷いはなかった。
「していないわ」
そう言った自分の声が、思ったより静かで落ち着いていて、少し驚いた。
春木は安堵したように小さく息をついた。
「だったら…また、来てくれますか」
その言葉に、心の奥で何かがゆっくり沈んでいく感覚があった。
決意と言うほど強くなく、諦めと言うには優しすぎる――曖昧で、けれど確かな重さ。
駅に向かって歩きながら、私は思った。
由佳のことに口を出したあの日、私は“正しさ”という名の旗を掲げていた。
けれど、誰かの心に土足で踏み込むことが、どれほど野暮で無粋なことだったのか。
ようやく、身に沁みてわかった気がする。
人は人の自由で揺れ、迷い、選んでいく。
そこに口を挟む権利など、誰にもない。
そして私もまた、その自由の中で揺れ、迷い、選ぶひとりに過ぎない。
「春木くん」
呼ぶと、彼が少し照れたように笑った。
「今日、寄っていってもいいかしら」
あの日と同じ言葉だった。
けれど胸の中の温度は、あの日よりずっと穏やかだった。
雨は降っていないのに、ふたりの距離だけが静かに近づいていく。
誰かの正しさでも、誰かの願いでもなく、
ただ“自分の気持ち”が選んだ道を――
私はようやく、受け入れられるようになった。
夜の街に灯りが点り始めた頃、
私はもう、迷っていなかった。

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