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恐怖!松屋深夜料金
噂には聞いていた。松屋が深夜料金の設定をするということ。
高円寺フォースフロアⅡにて「空には終点がセカンドシーズン」のライブを終えると、もう22時だった。
本当ならゆっくりしていきたいところではあるが、家は相模原である。
早く出発しなければ午前様だ。
夜ご飯を食べていなかったので、ここは松屋っしょってことで、
小説4
週が明けても、胸の奥に残るあの夜の温度はなかなか冷めなかった。
いつもの席に座ってパソコンを立ち上げても、指先だけが妙に軽く、心はどこか宙に浮いたままだ。
そんな私のそばを、由佳がそっと通り過ぎた。
視線が一瞬合ったけれど、お互いすぐに逸らした。
あの子はあの子で、何か整理したい思いを抱えているのだろう。
ただ、私がそこに手を伸ばすことが正しいのか――もう、その答えはわかりはじめていた。
昼休み、給湯室で湯飲みを洗っていると、由佳が入ってきた。
「先輩、この前は……ありがとうございました」
俯いたままの声だった。
謝罪なのか、感謝なのか、決意なのか。
彼女自身も整理しきれていないのだろう。
「由佳。あなたのことだから、きっと大丈夫よ」
ただそれだけを言うと、由佳はほんの少し目を潤ませ、「はい」とだけ小さく返し、すぐに出ていった。
その背中を見送った瞬間、胸が微かに痛んだ。
けれど、もうそれに踏み込む資格は、私にはないのだと思った。
人の心は、誰かの指示で動くものではない。
あの子が選ぶ道も、私が迷う道も――それぞれ、自分で決めるしかない。
*
会社の帰り道、空気に少し春の気配が混じり始めていた。
信号待ちをしていると、背中に見覚えのある気配が近づいた。
「先輩」
振り返ると、春木が立っていた。
さりげない顔をしているのに、目の奥だけがわずかに揺れている。
「この前のこと、後悔していませんか?」
唐突な問いだった。
それでも、返事に迷いはなかった。
「していないわ」
そう言った自分の声が、思ったより静かで落ち着いていて、少し驚いた。
春木は安堵したように小さく息をついた。
「だったら…また、来てくれますか」
その言葉に、心の奥で何かがゆっくり沈んでいく感覚があった。
決意と言うほど強くなく、諦めと言うには優しすぎる――曖昧で、けれど確かな重さ。
駅に向かって歩きながら、私は思った。
由佳のことに口を出したあの日、私は“正しさ”という名の旗を掲げていた。
けれど、誰かの心に土足で踏み込むことが、どれほど野暮で無粋なことだったのか。
ようやく、身に沁みてわかった気がする。
人は人の自由で揺れ、迷い、選んでいく。
そこに口を挟む権利など、誰にもない。
そして私もまた、その自由の中で揺れ、迷い、選ぶひとりに過ぎない。
「春木くん」
呼ぶと、彼が少し照れたように笑った。
「今日、寄っていってもいいかしら」
あの日と同じ言葉だった。
けれど胸の中の温度は、あの日よりずっと穏やかだった。
雨は降っていないのに、ふたりの距離だけが静かに近づいていく。
誰かの正しさでも、誰かの願いでもなく、
ただ“自分の気持ち”が選んだ道を――
私はようやく、受け入れられるようになった。
夜の街に灯りが点り始めた頃、
私はもう、迷っていなかった。
