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BARBEE BOYS・KONTA、事故で四肢が完全麻痺
「命は永らえられないと…」

何があったかは言わないパターンですね。これって誰もつっこまないんですかね。
犯罪に近い何かがあるのでしょうか。音楽活動が続けられるというのはどういうことなのでしょうか。
説明した方がいいと思います。
「薄曇りの午後」第3話 作/奈良あひる
週の半ば、雨が急に降り出した。
会社を出たとき、ビルの庇の下で足を止めると、傘を持っていないことに気づいた。
しずくの筋を眺めていると、背後から声がした。
「先輩、よかったら駅まで送りますよ」
振り向けば、春木が立っていた。
スーツの肩にうっすらと雨粒をつけて、どこか急いで来たような気配がある。
「……お願いするわ」
二人で相合傘の形になると、狭い世界がふっと生まれた。
雨の音が周囲を覆い、外の世界と自分たちを切り離していく。
「この間のこと、気にしてませんよ」
彼が言った。
その声は軽く、しかし言葉にしない何かが混じっていた。
「私のほうが……気にしてるのよ」
そこで会話は途切れた。
代わりに、傘の下の湿った空気だけが一つの心臓のように脈打っていた。
駅に着いても、私は足を止めなかった。
気づけば、こちらから言っていた。
「……今日、少し寄っていってもいい?」
春木は、驚いたように目を見開き、それから小さく頷いた。
*
彼の部屋に入るのは三度目だった。
けれど、空気が前とは違った。
玄関の匂いも、テーブルに置かれたカップの位置も、
どれも“このあと起こること”を控えた静けさを帯びている。
「先輩、濡れてるじゃないですか」
春木がタオルを差し出す。
私は受け取り、髪に押し当てながら彼の動きを見ていた。
「……どうして私なんかに、そんな顔をするの」
言ってから、しまったと思った。
けれど春木は、少し照れたように笑っただけだった。
「どうして、ですかね。
あの日、ここに来てくれたときから……先輩を“女の人”として見てしまってるんだと思います」
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
誰かの奥さんでもなければ、後輩でもない。
ただ一人の“女”として扱われる感覚が、今日だけは痛いほど沁みた。
「春木くん」
呼んだだけなのに、息が少し震えた。
彼の手が、ためらいがちに近づいてくる。
触れたのか触れないのか、わからないほどの距離で止まり――
次の瞬間、私は自分のほうからその手を取っていた。
ソファに腰を下ろしたのは、自然な流れだった。
雨の音は遠のき、部屋の静けさが濃くなる。
「本当に、いいんですか」
彼が低く囁く。
私は目を閉じて、ゆっくりと頷いた。
何が正しくて、何を失うのか――
その境界を越える瞬間は、驚くほど静かだった。
彼の腕が私を包んだとき、
心の中で何かがほどける音がした気がした。
灯りをひとつ落とすと、部屋の色がやさしく滲んだ。
その中で、私は自分の選んだ道を、ただ受け入れていた。
二人の距離が消えていく気配だけが、
ゆっくり、しかし確実に広がっていった。
*
帰り道、雨は止んでいた。
濡れたアスファルトが街灯を反射し、
歩くたび、足元に淡い光が揺れた。
私は肩に残る温度を、そっと確かめた。
それは後悔ではなく、
ただ静かな余韻としてそこにあった。

作者紹介
田中宏明 1980年生まれ 東京都昭島市出身の写真家・放送作家。
2003年 日本大学文理学部応用数学科 ぎりぎり卒業。下北沢・吉祥寺での売れないバンドマン生活&放送作家として日テレ・フジテレビ・テレビ朝日を出入りする。
現在はピンでラジオと弾き語りでのパフォーマンスをおこなっている。
◆写真家:シティスナップとかるーい読物「井の頭Pastoral」撮影・編集
◆放送作家:ラジオドラマ「湘南サラリーマン女子」「わけありキャバレー」原作・脚本
出演ラジオ 第102回
田中屋のシティスナップ

