=田中屋スポーツ新聞=新聞を読めと言われた世代!?読むならスポーツ新聞だな。情熱といかがわしさのサンドウィッチ。ジャンクな話題をコーヒーで流し込め!学校でも職場でも使える話題をお届け
=ライブのおしらせ=
BerryBerryBreakfast現場ラジオLive
12月13日 南林間チャンドラ・スーリヤ
17:30スタート
オールデイズ直江津Radioモーニングから
ラジオドラマ「見世物小屋のクリスマス」と歌の世界をお届けします。
脚本・歌・出演/田中宏明
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小説「湯河原慕情」第3話 作/奈良あひる

湯河原から戻って数日。
台所に立ちながら、由利子は食器を洗う手元に、
なぜか匂いを思い出していた。
珈琲とも、湯けむりとも違う、落ち着いた香り。
ある日、買い物帰りの角で、黒い車が止まった。
窓越しに、見覚えのある目元。
「たまたま近くまで来まして」
その言い方が嘘でも本当でも、由利子は追及しなかった。
助手席に乗り込むと、ほんのり同じ香りがした。
向かった先は、湯宿の裏手の小さな建物。
観光客が寄りつかない静かな場所。
男の手は、ただそっと彼女を導くだけだった。
灯りの弱い部屋に入ると、
湯沸かしの音が部屋の隅で小さく響く。
由利子は座った拍子に、肩の力が抜けるように深く息を吐いた。
男は、何も言わないまま由利子の肩に手を置いた。
距離を測るように、ゆっくりと。
由利子も、拒まなかった。
ただ、逃げなかった。
指先が喉元の布に触れたとき、
由利子は目を閉じて、布の音を聞いた。
それは、衣擦れとも、ため息ともつかない微かな音だった。
その後の瞬間は、
言葉を使うより、沈黙のほうが正確だった。
灯りの下で、触れられ、抱かれ、
由利子は自分の身体が誰かの呼吸と合うことを思い出した。
夜が深まるころ、
湯けむりのような静けさだけが残り、
由利子は薄い毛布の中で、
知らない柔らかい匂いに包まれていた。
それが誰のものなのか、
問いただす必要はなかった。
つづく
作者紹介
奈良あひる 1990年生まれ 渋谷の会社員
趣味で体験をいかした青春小説を書いています。応援よろしくお願いします。
作者紹介
田中宏明 1980年生まれ 東京都昭島市出身の写真家・放送作家。
2003年 日本大学文理学部応用数学科 ぎりぎり卒業。下北沢・吉祥寺での売れないバンドマン生活&放送作家として日テレ・フジテレビ・テレビ朝日を出入りする。現在はピンでラジオと弾き語りでのパフォーマンスをおこなっている。
◆写真家:シティスナップとかるーい読物「井の頭Pastoral」撮影・編集
◆放送作家:ラジオドラマ「湘南サラリーマン女子」「わけありキャバレー」原作・脚本
出演ラジオ 第101回
田中屋のシティスナップ

