田中屋スポーツ新聞 10/7「今ロッキード事件!?小説40」編集者/田中宏明

シティスナップ
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田中屋の知ったかで6文で語る「田中角栄とロッキード事件」

ロッキード事件は、1976年に発覚した日本の大規模な汚職事件。
アメリカの航空機メーカー「ロッキード社」が、自社の旅客機を日本で売るために賄賂をばらまいていたことが明らかになった。
その資金の一部が、当時の前首相・田中角栄に渡っていた。
田中は受託収賄の疑いで逮捕され、現職・元首相として初めての刑事被告人となった。
裁判では有罪判決(懲役4年)が出ましたが、田中は最後まで無罪を主張した。
この事件は、日本の政治と企業の癒着を象徴する出来事として、今も語り継がれている。

田中屋のシティスナップ「吉祥寺七井橋通りの女」

吉祥寺スナップ 撮影/田中宏明

連続小説「女のの風景写真」第40話 作/奈良あひる

 午前の光が街を包み始めていた。
 それぞれの家へ戻った翌朝、三人は互いに約束もなく、ほとんど同じ時間に目を覚ましていた。
 けれど、行動の理由は三者三様だった。

 夫は書斎に入り、机の上のノートパソコンを開いた。
 いつもよりも指の動きがぎこちない。
 由紀子の日記のフォルダを開く。
 もう読む必要などないと頭ではわかっていた。
 それでも、指は自然に動いた。
 そして、画面に現れた空白の新しい日付に、短い一文だけを打ち込んだ。

 ——「ここから、どうする?」

 それを保存し、彼はノートパソコンを静かに閉じた。
 何かを終わらせたというよりも、始まりの音のようだった。

 一方、由紀子は家事の手を止め、冷蔵庫の前で立ち尽くしていた。
 何かを考えているというより、空気の流れを感じ取ろうとしていた。
 昨日までの時間が、まるで遠い夢のように曖昧になっている。
 けれど、あの夜に生まれた「実感」は、まだ体の奥に確かに残っていた。

 彼女はふと、洗面所の鏡を見た。
 映る自分の顔に、以前よりもわずかな透明さを見つけた。
 罪悪でも後悔でもない。
 ただ、自分という輪郭を知った者の表情だった。

 そして、男。
 彼は街のカフェの隅で、ノートを開いていた。
 前回の出来事をどう言葉にするか迷いながら、ペンを動かす。
 紙の上には、まだ誰にも読まれていない新しい物語の断片があった。
 彼はそれを、由紀子が読むことを想像しながら書いた。
 そして、書き終えると同時に小さく息を吐いた。

 「次は、どんなふうに始まるんだろうな」

 つぶやきは、カップの中のコーヒーに吸い込まれていった。

 午後、由紀子のスマートフォンが小さく震えた。
 画面には、夫からの短いメッセージ。

 ——「少し、話せる?」

 その瞬間、彼女の中で何かが再び動き出した。
 もう、誰も以前の位置には戻れない。
 それでも、動いていく。
 行動が、答えになると信じながら。

つづく

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