=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。
第9話
その夜、夫が「風呂、先入ってくる」と言ったあと、私は下着を選んでいた。
別に新しいものではなかったが、柔らかなワインレッドのシルクを肌にあてると、自分でも驚くほど胸が高鳴っていた。
夫が浴室から出てくると、髪の毛が少し湿っていて、頬が赤かった。
「……寝る?」
そう訊く声が、いつもより低かった。
「うん」
寝室の灯りを落とすと、夫は私の背中にそっと手を添えた。
手のひらの温度が、あの夜以来のものだった。
唇が首すじをなぞり、手が下腹部をやさしく撫でる。
驚いたのは、夫の動きが、かつてよりもずっと丁寧で、遠慮がなくなっていたことだった。
「……どうしたの」
と問いかける私の言葉の途中、指先が秘部を探り、すでにじっとりと濡れていた場所に触れた。
「どうしたって?」
夫が微笑む。
そのまま、息を吐きながら膣口を撫で、じっくりと入れてきた。
「ん……っ」
腰をゆっくり動かすたびに、奥まで届いてくる感触が変わっていた。
ピストンの深さ、リズム、角度――
まるで、“教わってきた”ような動きだった。
「まって、ちょっと、イきそう……っ」
夫は止めなかった。
中でびくんと震え、私が一度目を閉じて果てると、そのまま唇を胸に這わせ、再び律動を始めた。
「また……あ、だめ、また……っ」
二度、三度。
夫のペースは変わらなかった。
耳元で「大丈夫、まだいける」と囁かれ、私はベッドのシーツを握りしめて声を漏らした。
ああ、この男は――
もう、別の誰かと身体を交わした男なのだと思った。
その女が、佳乃だった。
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