白い傘 第3話 最終回 奈良あひる

短篇小説
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「たまには顔を出してよ。もう、意地を張らなくてもいいんじゃない?」
真弓から届いたメッセージは、どこか軽やかだった。
待ち合わせの場所は、あのホテルのラウンジ。
行くべきではないと分かっていながら、私は指定の時間に足を運んでしまった。

ふたりはすでにグラスを手にしていた。
ネクタイを少し緩めた水嶋、そして落ち着いた色のワンピースをまとった真弓。
彼女は静かにグラスを揺らしながら、柔らかく笑っていた。

そのあと、三人で並んで座り、ワインを口にした。
言葉は少なくても、不思議と空気は和やかで、心地よい沈黙が続く。
気づけば水嶋が近くに寄り、そっと私の肩に手を置いた。
その仕草に、胸の奥で何かが小さくほどけていくのを感じた。

目を閉じれば、長い時間を超えてふたたび繋がったような温もりがあった。
それは言葉よりも穏やかで、静かな安心に包まれていた。

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