夜が明けて、台所にいた私は、またあの水色の封筒を開き直した。
裏には佳乃の住所が書かれていた。
手紙を書くかどうか、ずっと迷っていたが、もう答えは出ていた。
引き出しの中から便箋を取り出し、ペンを握った。
拝復
お手紙、拝読しました。
ご丁寧なご報告、ありがとうございました。
夫とあなたがどのような時間を過ごされたか、私はきっと想像以上に冷静に受け止めています。
あの夜、帰宅した夫の変化は、身体がいちばん正直に語っていました。
正直に言えば、少し羨ましくもありました。
私にはできなかった“再生”を、あなたが果たしてくれたように思えたからです。
あなたと彼が、どこまで関係を深めていくのか、それは私の関与すべきことではないと思います。ふたりが望むところまですすんでいいっていただきたいと思います。
けれど、ひとつだけ、少しだけ、お願いがあります。
もし可能であれば――
写真や、動画のような形で、
あなたと彼の時間を、ほんの断片でも、見せていただけないでしょうか。
他意はありません。
ただ、あなたが選ばれた理由と、その夜の空気に、少し触れてみたいと思ったのです。
無理のない範囲で、お願いいたします。
敬具
便箋を畳み、封筒に入れ、切手を貼った。
夫が昼寝をしている寝室の横を通って、私は郵便受けにその手紙を投函した。
返事が来るかどうかは、わからない。
けれど、たぶん私はもう――
「見届ける」側にいる女になったのだと思う。
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