第3話
「来なよ、たまには。あなたも、もう意地張らなくていいじゃない」
真弓からのLINEは、妙に軽かった。
場所はあのホテルのラウンジ。
私は行くべきではないと分かっていたのに、時間通りに現れてしまった。
二人はすでにワインを飲んでいた。
水嶋はネクタイを緩め、真弓はいつもより肌を見せたワンピースで、グラスを弄んでいた。
部屋に上がったときには、グラスの数は三つになっていた。
無言のまま、水嶋が私の肩を引き寄せ、唇を重ねてきた。
その熱に抗う理由は、もうなかった。
すぐに真弓の手が背中に回り、ブラウスのボタンを外していった。
「久しぶり。私たち、こういうの嫌いじゃないでしょう?」
真弓の手つきは手慣れていて、
乳首を撫で、吸いながら、彼女自身のスカートをめくってみせた。
ショーツ越しに、もう濡れているのがわかる。
私は、二人を見ているうちに、足が震えた。
劣情というより、恐れに似たものだった。
だけど、それでも身体は熱を帯びて、
水嶋が私の中指を舐め、ゆっくりと脚のあいだへ導いた。
「交代ね」
真弓がそう言って、私の後ろにまわる。
乳首を強く吸われながら、水嶋の指が私の中へ沈んでいった。
ねっとりとした音とともに、蜜が溢れていく。
「入れて…もう、いい」
私がそうつぶやくと、水嶋は私を四つん這いにし、後ろから一気に突いてきた。
「あっ、ああ…!」
湿った音、肌のぶつかる衝撃、
そしてその向こうで、真弓が水嶋の口に自身の乳房を押し当てている。
「どっちが好き?」
真弓が笑いながら訊く。
「……どっちも、いや、もうわかんない」
水嶋の腰が激しくなり、
私の奥を擦るたびに、頭が白くなった。
脚のつけ根ががくがくと震え、吐息がつま先まで届いていく。
やがて、私が絶頂を迎えたのと同時に、
水嶋は私の背中に精を吐き出した。
そのあとは誰も喋らなかった。
浴室から戻ったとき、真弓がワインを手に言った。
「これで帳消しね」
「何が?」
「私のことも、水嶋のことも、全部」
私は頷かなかった。
ただ、薄い毛布を肩にかけたまま、窓の外を見ていた。
朝が来ようとしていた。
外の空気が少しずつ、夜の熱を追い払っていく。
あれが最後だった。
水嶋とは、二度と会っていない。
真弓とも距離ができたままだ。
誰かのものを共有することの虚しさを、
あの朝の薄明かりが教えてくれた。
身体は重ねられても、心の器は分け合えない。
どこかがいつも欠けて、こぼれて、残らない。
いま、白い傘は捨てた。
誰かに貸すことも、もうない。
そして私は今日も、
なにもない身体で眠る。
だけど、たまに夢を見る。
水嶋の舌が、真弓の指が、
私の奥をかきまわしていた夜を。
だけど、もう振り返らない。
その夜は、たしかにあった。
けれど、もう何も残ってはいない。