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連絡をしたのは、五日後だった。
彼は驚いたふうでもなく、「うれしいです」とだけ言った。
ふたりが会ったのは、駅から少し離れた喫茶店だった。
そしてその次は、都内の古いビジネスホテルだった。
夕方の路地を歩きながら、彼がぽつりとつぶやいた。
「このまま、別れたくないと思ってしまったら、いけませんか?」
その言い方が、あまりに正直で。
私は思わず足を止めた。
彼が続けた。
「ちゃんと、大人の不道徳だってわかってる。
でも……あなたの目に、もう少し長く映っていたい。
何もしないなら、それはそれで……でも、触れてしまったら、もう……止められそうにない」
その声に、言い訳の余地を残したまま、私はうなずいていた。
理性の形をしたドレスの裾を、自分で持ち上げていたのだ。
チェックインのとき、私は少しだけ躊躇った。
だが、エレベーターの中で彼が手を取り、指先を握った瞬間、体の奥が疼いた。
部屋に入るなり、私は背中を壁に押しつけられた。
口づけは最初、軽く触れるだけだった。
けれど二度目には、舌が深く入り込んで、彼の吐息が鼻先に落ちた。
「……ずっと、あなたの唇を思い出してた」
シャツのボタンが外され、ブラジャーのホックが片手で解かれる。
彼の指が、胸をゆっくりと包み、親指の腹で乳首を転がす。
私は小さく喘ぎ、脚をすこし開いてしまった。
スカートの裾を捲られ、ストッキングごと下着を下ろされた。
ソファに座らされ、片脚を抱え込むように開かれた。
「……もう濡れてる」
彼の指が、ゆっくりと中をなぞる。
指先が膣口を掠め、さらに奥へと入ってきた。
腰が勝手に動き出し、私は彼の指に絡みついてしまう。
「だめ、もう、我慢できない」
そう言ったのは私だった。
ベッドに移され、彼がコンドームをつけるのがもどかしくて、私は彼の手を引いた。
「奥まで、突いて」
一度で、深く差し込まれた。
その衝撃に声が漏れる。
何度も、上下に揺さぶられ、子宮に当たるたび、頭が白くなる。
彼は絶え間なく動き、時に止まり、また深く沈み込む。
「あっ……そこ、もっと」
乳首を吸われながら突かれ、私はシーツを握りしめて果てた。
奥の奥で、熱いものが弾けた感覚があった。
しばらく、彼の腕の中で震え続けた。
***
そのあと、ふたりで静かに缶コーヒーを飲んだ。
窓の外では、小雨が降っていた。
「……また会える?」
私がそう聞くと、彼は黙ってうなずいた。
けれど、次があるかどうかなんて、わからなかった。
この手のことは、約束よりも体の記憶が早く薄れる。
私はシャワーを浴び、髪を乾かしてホテルを出た。
帰り道、駅の売店で夫の好きな缶ビールを二本買った。
帰宅後、夫はちょうど完成したばかりの零戦のプラモデルを得意げに見せてきた。
「よくできてるでしょ?」
私は微笑んだ。
けれど、スカートの奥にまだ残っている湿り気が、私を別の場所に繋ぎとめていた。
つづく
作者紹介
奈良あひる 渋谷のOL