田中屋スポーツ新聞「愛のシャワーのあとで2番作詞」編集者/田中宏明

シティスナップ
シティスナップ 作曲memo

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作曲memo「愛のシャワーのあとで」(2番)

このあとどこ行こうかなんて

そうねホテルでいいわ

ゆっくり過ごしたいじゃない

恋は今でもオーバーヒートね
夜風ぐらいじゃ冷めないわ 
ちょっとシャワー浴びてくる

今夜はシャワーで しがらみ流して
愛がある 愛がない そういうことじゃなし
水も違うなら 恋も違うはず
事故に遭うように 出逢った二人
ここまで来れば誰も来ない いいんじゃない

田中屋のシティスナップ「銀座の女」

銀座スナップ 撮影/田中宏明

小説「今夜はシャワーで」作/奈良あひる

夜の高速を降りて、街の灯がひとつずつ濡れていく。フロントガラスを伝う雫が、信号の赤をぼやかしていた。助手席の彼女は、口紅を直しながら、サイドミラー越しに自分の顔を見ていた。

「このあとどこ行こうかなんて」
彼が言ったのは、国道に出る直前だった。

「そうね、ホテルでいいわ」
彼女の声は、ラジオのボリュームを少し下げるような柔らかさで車内に落ちた。

音楽が流れていた。女の歌声。
“恋は今でもオーバーヒートね 夜風ぐらいじゃ冷めないわ”
まるでふたりのために流れているようで、彼は笑って、彼女も笑った。


彼女の名は 咲子
もとは同じ会社にいた。退職したのは去年の秋。理由は「飽きたから」としか言わなかった。
彼はまだ会社に残っていて、週に一度だけ、咲子と会っていた。

いつも彼女のほうが早く席を立つ。
「そろそろ帰らないとね。夜って、すぐに終わるから」
そう言うと、白いバッグを肩にかけて、後ろを振り返らずに歩いていった。


ホテルの部屋に入ると、咲子はすぐに靴を脱ぎ、ベッドの上に腰を下ろした。
「ねえ、シャワー借りてもいい?」
「どうぞ」
「ちょっと、しがらみ流してくる」

冗談めかして言いながら、浴室のドアが閉まる。
シャワーの音が始まり、すぐに蒸気がドアの隙間から漏れてきた。

彼は窓際に立ち、夜景を見た。
遠くの川に沿って、車の列が光の帯になって流れていた。
この部屋にたどり着くまで、いくつの信号を越えたのだろう。
そのどれもが「行くな」と「行け」と、同じタイミングで点滅していた気がする。


彼女はタオルを頭に巻いたまま出てきて、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
「ねえ」
「うん?」
「愛があるとか、ないとか。そういうことじゃないのよ」

そう言って、ラベルを剥がしながら、彼を見た。
「水も違うなら、恋も違うはずでしょ」

何を言いたいのか、彼にはすぐにはわからなかった。
ただ、咲子の瞳が、どこか遠くを見ていることだけはわかった。

彼女はベッドに横たわり、天井を見つめた。
「事故に遭うみたいに出逢ったのよ、私たち」
「そうだね」
「ここまで来れば、誰も来ない。いいんじゃない?」

彼は頷いた。
けれどその頷きが、許しなのか、諦めなのか、自分でも区別がつかなかった。


明け方、カーテンの隙間から薄い光が差し込んだ。
咲子はまだ眠っていた。
肩からシーツが滑り落ち、肌が月の名残りのように白く光っていた。

彼はシャワーを浴びた。
蛇口をひねると、熱い湯が音を立てて流れた。
指先で首筋をなぞると、昨夜の記憶が少しずつ剥がれていくようだった。

「今夜はシャワーで、しがらみ流して」
咲子の声が、耳の奥でまだ響いていた。

湯気の中で、ふと思った。
しがらみというのは、人の手で流せるものではない。
けれど、流そうとするその夜だけは、確かに救われるのかもしれない。


部屋を出るとき、彼女は目を覚まして言った。
「また、どこかで」

その言葉は約束ではなく、別れの形をしていた。
彼は頷き、ドアを閉めた。

外はもう朝で、冷たい風が吹いていた。
夜の熱が、少しずつ冷めていく。

けれど、胸の奥ではまだ――
“恋は今でもオーバーヒートね”
というフレーズだけが、再生を止めてくれなかった。

作者紹介 

田中宏明 1980年生まれ 東京都昭島市出身の写真家・放送作家。  

2003年 日本大学文理学部応用数学科 ぎりぎり卒業。下北沢・吉祥寺での売れないバンドマン生活&放送作家として日テレ・フジテレビ・テレビ朝日を出入りする。現在はピンでラジオと弾き語りでのパフォーマンスをおこなっている。  
◆写真家:シティスナップとかるーい読物「井の頭Pastoral」撮影・編集  
◆放送作家:ラジオドラマ「湘南サラリーマン女子」原作・脚本 オールデイズ直江津Radioで放送中! 

出演ラジオ 第100回 

第100回!「BerryBerryBreakfastのオールデイズ直江津Radio」ヨーグルト田中とDJシューカイ

田中屋のシティスナップ 

田中屋のシティスナップ 旅情俳句前夜「雨に濡れる高田馬場の女」撮影/田中宏明 #サーファー #shorts #zine 
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