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夕刻コラム「グレートーOーカーンの正義」
悪役レスラーなんて言葉がある。しかし、「俺は悪だ!」なんて言っている人はいないんじゃないかな。
なんとなくスタイルが悪っぽいから悪役だ!ヒールだ!なんていわれるわけで。
みんな自分の中の正義で戦っているのだと思う。
このニュースもそういうことだと思う。
田中屋のシティスナップ「吉祥寺七橋通りの女」


吉祥寺スナップ 撮影/田中宏明
小説「女の風景写真」第44話 作/奈良あひる
その夜は、風が強かった。
窓を叩く音が、ときおり部屋の静けさを切り裂く。
テーブルの上には、開かれたままのノート。
ページの端が、風に揺れていた。
夫はページを見つめながら、黙っていた。
指先がわずかに震えている。
その震えは怒りでも恐れでもなく、
抑えきれない何か——衝動のようなものに近かった。
「続きを、書こうか」
由紀子が言うと、夫はゆっくり顔を上げた。
「……今日は、書くよりも“確かめたい”気分なんだ」
由紀子は一瞬、意味が掴めずに夫の目を見返した。
その視線の奥には、静かな熱が宿っていた。
怖くはなかった。けれど、どこか覚悟のようなものを感じた。
夫は立ち上がり、ゆっくりと由紀子の方へ歩いた。
その足音が、ページをめくる音のように近づいてくる。
「もしも、あの男が今ここにいたら——」
低くつぶやいた声が、現実と物語の境を曖昧にしていく。
「彼はどうしたと思う?」
由紀子は答えられなかった。
ただ、その問いに含まれた“彼”という響きが胸の奥に滲み、
長い沈黙がふたりの間を埋めた。
夫は目を伏せ、しばらく黙ったあと、
「書くだけじゃ、足りなくなってきた」と言った。
「読んで、想像して、君の言葉を追ううちに、
いつのまにか、自分がその男になっていく気がする」
その言葉に、由紀子の呼吸が浅くなった。
夫が“彼”の存在を受け入れているのか、それとも奪おうとしているのか、
わからなかった。
「じゃあ……どうするの?」
小さな声で尋ねると、夫はノートの上に手を置いた。
「この続きを、書く前に——試してみよう」
その言葉に、空気がひとつ、確かに動いた。
由紀子は息をのんだまま、夫を見つめた。
ノートの上では、最後の一文が風に揺れていた。
〈女は、物語の続きが現実に訪れることを恐れながら、どこかで待っていた。〉
つづく