田中屋のホントのような嘘の話「アルバイト」

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Uncategorized 夕刻日誌

それは、26歳の夏、放送作家をしながら、下北沢の喫茶店でアルバイトをしているときのことでした。

日々楽しかったが、金銭的にはカツカツでした。

そんなとき、アパートの大家さんから声がかかったのだ。田中くーん、ちょっとアルバイトしない?

そバイトとは、

冷蔵庫の中に入って、氷ができたら、その氷を氷ボックスへいれるというものだった。大家さんが冷蔵庫にいれたペットボトルの水を、氷トレーにいれて冷凍庫で凍らす。氷ができたらボックスに入れる、の繰り返しである。

それを冷蔵庫の中で行い、絶対に家族にばれてはダメとのことだった。

家族にばれたら大変なことになる。

恐ろしいことが起きると言って、それ以上のことは語られなかった。

とにかくばれないように、すべてのことを冷蔵庫の中でするのだ。人間自動製氷機能付き冷蔵庫なのだ。

僕はこれを暑さが通りすぎる9月中旬までやった。冷蔵庫から出ることはできない。

冷蔵庫の中のものは食べていいと言われていた。ばれないように、すこしづつ食べるのだ。特に豆腐がうまかったことを覚えている。大家さんは気を聞かせて、醤油も冷蔵庫の中にいれておいてくれたりした。

ばれたら終わりなので。

そして、無事バレずに期間は終わり、給料をもらった。

バイト期間、アパートの家賃サービスと、リッケンバッカーのギターが買えるぐらいもらった。

そして、ひとつだけ、注意点があった。

このアルバイトをやったことがあることは誰にも言ってはいけないということ。

しかし、僕はここは相談を持ちかけ、一生はきついので、期間を決めてくれ、と。

すると大家さんは。それもそうねぇ、と

それでは、あなたが、いつか自動製氷機能のついている冷蔵庫を買ったとき、それまででokということになった。

そして時はたち、冷蔵庫を買い換えたら、その機能がついていたのだ。そして、そのアルバイトのことを思い出して、ここに書いたのである。

田中宏明(写真家)

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