=青春プチロマン小説=ありそうでなさそうで、それでも起きそうなロマンスをお届けする短篇小説。きっとどこかで起きている。
『たゆたう、からだ・後編』
思えば、ずっと乾いていた。
離婚して二年。
生活は整っていたが、寝具の肌触りすら、どこか無機質だった。
「触れる」も「触れられる」も遠い記憶のなかにあって、他人の温度は、TVの中か夢の中だけだった。
彼女──佳奈は、初めて出会ったときから、近すぎた。
ヨガのポーズで背中に手を添えられるたび、肩甲骨の内側が、ずっと疼いていた。
あの夜、佳奈の部屋で息を合わせてから、私はもう戻れなくなっていた。
「今日は…あなたに任せますね」
そう言って彼女は、仰向けになった。
スポーツブラを脱ぎ、レギンスのウエストをゆっくり下げる。
膝を立て、軽く脚を開いたその姿に、理性というものが音を立てて剥がれていった。
「触れてください。ちゃんと……見て」
彼女の下腹に手を伸ばすと、すでに湿っていた。
指でなぞると、小さく喘ぐような息がこぼれる。
私は舌を落とした。
下腹部から、鼠蹊部へ。
彼女のクリトリスに唇を寄せ、舌先で円を描く。
「そこ……だめ、でも……やめないで」
佳奈の手が私の髪を掴み、太ももが震える。
愛液が舌に甘く滲み、欲望はもう止まらなかった。
私は彼女の脚を抱え、腰を沈めた。
ゆっくり、焦らすように、濡れた入り口に亀頭を押し当てる。
熱と熱が触れた瞬間、彼女が声を押し殺した。
「…奥まで、来て」
その言葉に、深く、静かに挿入する。
締めつけるような中が、波のように私を迎え入れる。
一度、奥まで。
それからゆっくりと抜き、また沈む。
佳奈は目を閉じ、眉を寄せ、唇を濡らしたまま動きに応える。
「気持ちいい…苦しいくらい」
彼女の胸に唇を寄せ、乳首を含む。
そのたびに膣がきゅっと締まり、射精の感覚がじわじわと高まる。
私は腰を打ちつけながら、彼女の名前を呼んだ。
何度も、心の中で、声に出せぬように、強く。
彼女は身体をのけぞらせ、両脚を私の腰に絡めた。
「あっ…だめ、出して…」
射精は、感情と一緒に溢れた。
彼女の奥に、深く注ぎながら、私はしばらく動けなかった。
終わったあと、私は彼女の肩に顔を埋めた。
汗と精と、彼女の髪の匂いが混ざっていた。
「……大丈夫?」
彼女の問いに、私はゆっくりとうなずいた。
それが、ただの肉体の交わりでないことを、言葉ではなく肌が知っていた。
あの夜から、私たちは恋人という言葉を使わなくなった。
代わりに、「次、いつ来ますか?」とだけ聞かれる。
私は答える。
「呼吸が浅くなったら、また来ます」
そのたびに、佳奈は小さく笑う。
その笑い声が、まだ私の中で、静かに響いている。
おわり
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