BerryBerryBreakfastのオールデイズ直江津Radio第100回!!
おかげさまで第100回!
まぁ、続くとは思ってましたけどね。続けてるだけなのでw
プロではないので、お金というしがらみがないので。
それでは第100回お楽しみください。
田中屋のシティスナップ「渋谷の女」

渋谷スナップ 撮影/田中宏明
連続小説「女も3年目から」第4話 作/奈良あひる
あの夜から、三週間が過ぎた。
季節はゆっくりと春に向かっていて、街路樹の芽が少しずつ色を変えていた。
真紀は、ひとりで暮らし始めていた。
新しい部屋はまだ物が少なく、どこか音が響いた。
夜になると、湯を沸かす音と時計の秒針だけが、生活の気配を作っていた。
浩一からは、何の連絡もなかった。
けれど、連絡がないこと自体が、返事なのだと思っていた。
あの夜、何かを見た彼の表情を、真紀は忘れられなかった。
――許すことは、きっと忘れることじゃない。
それを教えたのは、あの夜の沈黙だった。
ある夕方、インターホンが鳴った。
ドアを開けると、浩一が立っていた。
少し痩せた顔で、手に小さな紙袋を持っている。
「これ、前に君が好きだって言ってた珈琲。見つけたんだ」
真紀は受け取った。
袋の中から、焙煎の香ばしい匂いが漂った。
その匂いだけで、胸の奥がきゅっと熱くなった。
「……どうして来たの?」
「謝りたかった。
あの夜のことも、今までのことも。
でも、それだけじゃない。君に会いたかった」
浩一の声は小さく、掠れていた。
真紀は黙って、テーブルの上に二つのカップを置いた。
湯を注ぐと、湯気がゆらりと立ちのぼる。
ふたりの間に、言葉のない時間が流れた。
それはかつての沈黙とは違い、どこかやわらかかった。
「君は、あの夜、何かを壊したんだと思ってた。
でも、壊れたのは、俺のほうだった」
浩一が微笑んだ。
真紀はその笑みを見て、ゆっくりと頷いた。
「壊れたものって、直るのね?」
「少しずつなら……たぶん」
カップの縁から、白い湯気が指先に触れる。
その温もりが、言葉よりも確かなもののように思えた。
真紀は窓の外を見た。
薄暮の空に、飛行機の光が小さく流れていく。
あの夜、自分がしたことが正しかったのかどうか、今もわからない。
けれど、間違いの中にも、確かな意味があった気がした。
浩一が言った。
「また、一緒に暮らしたいとは……言わない。
でも、君の中に俺が少しでも残ってたら、それでいい」
真紀は笑った。
少し寂しくて、少し温かい笑いだった。
「残ってるわ。
だって、今こうして珈琲を淹れてるんだもの」
カップを口に運ぶ。
その香りが、記憶と現在をやわらかく繋いでいた。
許しというのは、言葉よりも静かなものだ。
真紀はそう思いながら、カーテンの向こうの夕暮れを見つめた。
もうあの夜のように泣くことはない。
ただ、心の奥でひとつの灯りが静かにともっていた。

つづく