直江津からの帰り僕は、電車で座り疲れ赤羽で降りてみた。バイクも電車もすわり続けているので立ちたくなるのだ。
赤羽は29歳の頃働いていた町である。
その仕事帰りよく立ち寄った店が、立ち蕎麦屋「百万石」とつけめんの「大勝軒まるいち」である。
今日はこのどちらかにいってみようと思ったのだ。
どちらもあるかはわからない。
夜の匂いのする男と女が行き交う中歩けば、どちらもあった。
ではどちらに入るかだ。
マルイチといえば、僕がつけめんというものに出会った店だ。それまで食べたことはなく、邪道だぐらいに思っていた。
それでもここで食べたつけめんは衝撃的で、その後しょっちゅう行くことになる。
仕事が赤羽ではなくなったが新宿にもあった。
材料費の高騰とかなんだとかで、値段はだいぶ上がった。赤羽で食べていた時は700円だった。
しょうがないことなのかもしれないけど、物価の高騰で値段が上がるにつれ、内容がどんどんしょぼくなっていった。
接客もおかしくなっていった。「もうこねぇよ」と、ついにはいかなくなったのだ。
そんなことがあって、この赤羽である。
新宿では、値段が上がり、完成度は下がっていくという有様だった。出会いの場赤羽ではどうだ。
ここは、立ち蕎麦屋ではなくつけめんだ。

値段は新宿と同じである。850円
さぁ結果は…!!
新宿と同じしょぼいものだった。
あの、味はもうない。
肉もメンマもがっつり入って、20代男を油ギトギト満たしてくれる、生きるパワーに溢れていたあのつけ麺はもうこの世にない。ということだ。
値段を上げたなら、完成度はキープしてもらいたかった。まぁ、時代か。
完成度をキープしたら、1000円越えていたのかもしれない。それならそれで行かない。いけない。
ラーメンとはもともと安いものという立ち位置で、存在感を示してきたものという世代なもので。
この残念感を得た僕は、立ち蕎麦にしとけばよかったと思うのだった。

なぜなら、座り疲れて降り立ったわけなのだから。
エッセイ/田中宏明
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オールデイズ直江津Radio 第60回