不動産賃貸における善管注意義務
不動産の賃貸契約では、契約書に明記あるなしにかかわらず、賃借人に民法上発生する義務があります。中でも借主に課されるのが「善良なる管理者の注意義務」、いわゆる善管注意義務です。
これは、借りた部屋や建物を「賃借人の立場でどれぐらい気をつけて使用·管理なければならない」という基準(ルール)です。
民法400条は、賃貸借契約の借主に善管注意義務を定めています。借主は単に「自分の持ち物ならこのくらいでいいや」ではなく、あくまで「他人の財産を預かっている」立場にある以上、社会通念上期待される程度の注意を払わねばなりません。
賃貸物件使用時
例えばどれ(設備)が、それに善管注意義務にあたる?
スケルトンで借りた場合であっても、排煙窓や備え付け消防設備、備え付け建築基準法にかかる設備など、オーナーが設置したものであっても、その借り主が専用して使うものに関しては、この義務が発生します。
借主としては、自分の所有のものではないから自分は関係なーい!ということにはならないのです。
正常に使用ができるかのチェックや、もし不具合が出てきた場合には修繕等が義務となります。
また、契約書の中で明記があるない関係なく、貸室内設備や共用部に不具合があった場合は、オーナーへ報告を入れなければなりません。
原因が共用部にあったとしても、この連絡が遅くなったことによる損害は、善管注意義務により借主責任となります。
建物の明渡し
建物を明け渡す際にも、善管注意義務の問題はよく生じます。長年借りれば当然、通常の使用による「自然損耗」や「経年劣化」は避けられません。これについては、必要なメンテナンス等を行っていれば、借主の責任ではなく、貸主が修繕費を負担するのが原則ですが、借主が掃除等メンテナンスを怠ったことで損傷・劣化が進んだ場合は、善管注意義務違反となり、原状回復費用を負担することになります。
共用部分の使い方や近隣との関係にも善管注意義務が及ぶと考えられます。たとえば、騒音トラブルを避けるために夜間の使用を控えるなど、単に設備を壊さないだけでなく「周囲に迷惑をかけない配慮」も義務に入ります。
結局のところ、不動産賃貸における善管注意義務とは、「他人の財産を預かっている」という意識を持ち、社会一般の感覚から見て常識的な注意を払うことに尽きます。法律上の義務として定められてはいますが、要するに「借り物は大切に使う」という日常の道理を、法的に示しています。
著者紹介
田中宏明 1980年生まれ 昭島市出身
週末の放送作家・写真家
賃貸不動産経営管理士、宅地建物取引士、2級ファイナンシャルプランナー